かわさきマイスター紹介
仲亀さんは、ドイツ菓子を中心とする洋菓子職人です。日本をはじめ、ドイツ、オーストリア、スイスなど、ヨーロッパ各地に出向いて洋菓子を研究してきました。ここまでの道のりでお世話になった宮東悠氏(洋菓子クドウ)、渡邊洽(ひろし)氏(バッハマン)、マドロン氏が師匠であり恩師と仰ぎます。生田駅にほど近い店舗には、クラシックなケーキを初め、地元を題材にした焼き菓子『栗谷ポテト』などオリジナル商品もあります。
プロフィール
仲亀 誠市(なかがめ せいいち)さん
中学卒業後、夜学の高校に通いながら菓子店に6~7年勤める。都内に転職し、技術をレベルアップしようと十数件の洋菓子店まわる。その中の1件である欧風菓子クドウで3年、スイス菓子バッハマン姉妹店で1年働いた。その後ドイツに渡り、マドロンで洋菓子製作を修行、帰国後に青山クドウのオープンでチーフに。森山サチ子さんのお店・フュッセンのオープンに立ち会う。1982年、30歳のときに現在のお店をオープンした。
川崎市多摩区在住。コンディトライなかがめ経営。平成20年度認定かわさきマイスター。
これは、仲亀さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。
仲亀さんについて教えてください
始めるきっかけは何でしたか?
15歳で中学を卒業と同時に働くことになりました。何がいいか考えていたとき、遠縁のお店に遊びに行き、そのお菓子屋さんで洋菓子のチーフが作ったケーキを頂いたところ、それが感動的に美味しくて。それからこの道を目指すことになりました。とにかく、とても手間暇かかったレベルの高いケーキだったのです。
もともと料理には関心があって作ってもいましたが、料理ではなくケーキの世界に入ったのは、そのケーキとの出会いがあったからです。その後、ドイツ菓子を作るようになったのは、洋菓子クドウで働いたのが影響しています。
やっていて一番面白いと感じることは何ですか?
食べるのも好きだし、作っていて楽しいです。お客さんからお褒めの言葉や手紙を頂くこともでき、本当にいい仕事だなと思います。
十何工程も経て、ひとつのお菓子が最後キチンと完成します。何もないところから作るので、技術を使い、手間暇掛けて組み立てて、最後に完成させるのです。
朝、ショーケースにケーキがザッと揃ったときはワクワクしますね。売れないと困るわけですが、売れてケーキが減ると寂しさを感じたりもします。
長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか? (他の道に行こうと思わなかったですか?)
約50年洋菓子の道を歩んできて、他の仕事もあったのかもしれないけど、やはり好きなので天職だと思います。
お客様からお手紙をもらったときは本当に嬉しいです。
ドイツのマドロンにいるとき、仕事も生活も最高に充実していました。日本で修行というと、朝早くから夜遅くまで仕事で、とにかく仕事が中心です。ドイツは当時から週休2日で、それでいて仕事はレベルが高いのです。
お菓子に対する考え方も違っていました。日本はいっぱい作っていっぱい売るという考え方が多いかもしれません。洋菓子の歴史もまだ浅い。ドイツでは、合理的だけどお菓子に対する歴史や伝統を大切にしています。
そういったドイツでの経験は、自分の中で大きな存在となっています。
苦労したことはありますか?
重労働なので腰を痛めてしまうことでしょうか。重たい生地だと仕込むのにも力がいりますので重労働です。
あとは、ドイツに行ったとき、ドイツ語には苦労しましたね。最初は洋画の世界に飛び込んだような感じがしました。1ヶ月もするとだいぶ覚えて、夢もドイツ語で見るようになったものです。
自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください
味覚・嗅覚が自慢です。よく行くお店で食事をしても、素材の鮮度や産地など、ちょっとした違いもわかるほどです。
そして探求心が旺盛です。
この仕事を長く続けていると、工芸菓子に行く人と、食べるお菓子に行く人と別れるのが常です。私はお菓子は食べるものだから味のことを考えてしまいます。もっとおいしくなるかな、といつも考えているのです。
基本は崩さないけど、もっと美味しくなるためならもっと工夫する。常においしくしていこうと思います。それが楽しさでもあります。
例えばエンガディナーという美味しいお菓子があります。クドウのとき、フュッセンのとき、自分の店でやるとき、時の経過とともに、もっと美味しくならないか材料の配分を研究し、見直しています。
衛生面にも気を配ります。
食材にまがいものを使わず、からだにいいものを使うため、決まったところから仕入れをしています。
ケガをしないように、手荒れを起こさないようにも気をつけています。ばい菌が入るといけませんから。手袋を使う人もいますが、やはり手の感覚に頼る仕事なので、私は使いません。
ものづくりについて教えてください
ものづくりの魅力を教えてください
何もないところこから形が生まれてくることです。そこに、味・香りも伴います。
ドイツ菓子は伝統のあるお菓子なので、新しい食材(和風のものなど)を使ったアレンジはしますが、必ず基盤となるお菓子が存在します。食材を変え、配分を変え、もっとおいしいものを追求していきます。
また、日本は四季がありますので、例えばチョコレートひとつとってもおいしい時期というものがあります。チョコレートは種類によって融点が違います。一番低いものは16~17度、高いものは44度。ですから季節も考慮しなければならないということになるのです。
デリケートな食材・チョコレート
融点の違いを利用してコーティング
かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい
まだなったばかりでわからないことも多いのですが。いろんな職業の方とお会いして勉強になりました。
後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?
今までに弟子は20~30人いて、独立している人もいる。
息子が後継者として、いま一緒に仕事をしています。他の店での修行も考えましたが、彼なりの考えもありますので、こうして私のもとで修行することになり、10年ほどになります。
この仕事に就くには、高校を卒業して、製菓学校に入るケースが多いです。高校卒業後、あるいは大学卒業後、社会人になってから、お店に入ったり製菓学校に入る人もいます。
これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします
続けると奥が深くて、生涯の仕事になると思います。好きでやれば、それだけの価値があります。
興味があって、健康で、食べるのが好きで、やりたければ、みんなに可能性があると思います。ただ、上を目指すとなると、体力があって、健康で、とにかく好きなこと。現場は厳しいので、そうじゃないと続きません。
何もないところから作って完成すれば嬉しいし、工芸菓子も素晴らしい芸術なので、それを追求していけば死ぬまでできる仕事です。
上を目指すならば、若い人にも教えなければいけないし、自分も研究しなければいけません。仲間がいて横のつながりがあれば、生きた情報が入ってきます。
最後にこれからの活動について教えてください
地道においしいお菓子を作っていきたいですね。
いま一番お勧めのケーキは『プラリーネン』(チョコレートとナッツのケーキ)です。もっともっとおいしいお菓子を追求していきます。
どうもありがとうございました。
釣りが大好きで、休みのときは海釣りに出かけるそうです。鯛釣りにも出かけることもあるとか。釣ったお魚は、お寿司屋さんに持ち込み……下ろし方をレクチャーしてもらってマスターしたとのこと。やはり、作ることがお好きなのですね。